2015年12月04日

石油再編で考える「2位でもいいが、3位はダメ!」(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 石油元売り最大手のJXホールディングスと3位の東燃ゼネラル石油が、2017年4月をめどに経営統合を目指すと発表しました。ここにきて、石油元売り会社の経営統合が進み、ほぼ2強の時代になりそうです。人口減少と省エネの進展で、国内のガソリンなど石油製品の需要は、これから一段と減ることが想定されています。加えて、石油製品には品質差がほとんどないため、新商品で活路を見いだすことも大変です。望みは海外市場ですが、欧米企業が強いのです。こうした八方ふさがりを打開するために、規模を大きくして効率化しようというわけです。国内市場を相手にする業界は、市場縮小の同じような悩みを抱えています。「生き残れるのは2強まで」という言葉は本当かもしれません。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、経済面(8面)の「石油再編 縮小との戦い/JXと東燃 経営統合へ基本合意/大手2強時代へ/給油所 激減続く」です。
 記事の内容は――「エネオス」の看板で給油所を展開する石油元売り最大手のJXホールディングス(HD)と「エッソ」などで知られる3位の東燃ゼネラル石油が3日、2017年4月をめどに経営統合を目指すと発表した。ガソリン需要が縮むなか、製油所の統廃合などを進めて収益力の強化をねらう。かつて10社以上あった石油元売りは集約が進み、現在は大手5社。2位の出光興産と5位の昭和シェル石油も早ければ来年10月に合併する見通しで、JXHDと東燃ゼネラルが統合すれば、2強体制になる。再編から取り残された形の4位、コスモエネルギーHDの出方が注目される。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 就活は「会社選び」と思っている人が多いでしょうが、ます「業界選び」をしたうえで、会社に目を向けるという順番のほうがベターでしょう。「会社はそれぞれ」といくらいっても、「業界の盛衰」と無縁ではありません。そして「業界の盛衰」は、かなり正確に見通すことができます。「業界は衰退したが、その業界に属していた会社は脱皮して成長した」という物語もありえますが、それは相当の苦労を乗り越えた上でのことです。

各社が脱皮するかどうかは別にして、石油元売り業界自体が衰退の道をたどるのはほぼ間違いないでしょう。石油元売り業界は、中東などから原油を輸入して国内の製油所で重油、灯油、軽油、ガソリン(重い順)に分離精製して販売する仕事です。収益源は最も値段の高いガソリンですが、日本の人口減、自動車の保有台数減にともない需要は減少中。加えて、地球環境問題などを配慮して燃費のいい車が増えていますので、ガソリンの消費は一段と減ると思われます。今後ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車などが普及すると、ガソリン消費はさらに激減するでしょう。

 石油元売り業界がもうひとつ苦しいのは、製品の差別化ができないということです。どの会社が精製してもガソリンはガソリン、灯油は灯油です。では、売れる売れないは何で決まるかというと、ガソリンスタンドの立地やサービスもあるでしょうが、最も大きいのは値段です。みなさんも、「○○のガソリンがいいから買う」なんて思わないですよね。「あそこのスタンドが安いから」とか「近いから」という人が多いと思います。つまり、業界としてはどこも同じものを作っているので、勝負は「いかにコストを下げるか」にかかっているのです。

 こうして、かつて10社以上あった石油元売り会社は、2強とコスモエネルギーHDの3社に集約されることになりました。コスモもこのままでは生き残れないと判断して、どちらかと一緒になる動きが出てくるものと見られています。「縮小する市場では、1業界に2社しか生き残れない」とよく言われます。少し前から、例えばコンビニは店舗が小さいのでひとつの商品で2ブランドまでしか置かないとされてきました。つまり、上位2番までに入るかどうかがメーカーにとってはとても重要になるのです。ほかにも、1社だけと取引しているとその会社に何かがあると供給がストップするといったリスクがあるので、2社と取引するという企業の振る舞いは一般的です。ただ、3社と取引する余裕はなくなっています。

 民主党の蓮舫議員が事業仕分けでスーパーコンピューター開発について「2位ではダメなんですか」とただしましたが、会社は業界で「2位でもいいんです。ただ3位ではダメです」ということなのです。1強にはならないのかと思った人もいるでしょうが、1強にはなりません。独占となって、公正取引委員会が許してくれないからです。

 就活の際には、まず、その業界が今後縮小する業界かどうかを見ましょう。内需に頼っていたり、新製品が出にくかったり、海外に強力な会社がたくさんあったりする業界は、縮小しそうです。そういう業界では、上位2位までに入っている会社の安定度が高いでしょう。再編があっても、基本的に上位2社が核になると思われますので、恐れなくても大丈夫だと思います。

 一方で富士フイルムのように、写真フィルム業界がほぼ壊滅的になっても、総合化学産業に脱皮して優良企業になった会社もあります。縮小する業界にいる企業だからといって、生き残りにきゅうきゅうとするだけではなく、再び大きく羽ばたく会社もあることも覚えておきましょう。

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