2015年01月13日

パリ連続テロ イスラム過激派ってなんだ?

テーマ:国際

ニュースのポイント

 世界に衝撃を与えたパリの連続テロ事件。「表現の自由」を掲げるデモが世界中に広がる一方、「反イスラム」の風潮も懸念されています。過激派による蛮行は、多くのイスラム教徒も強く非難しておりデモにも大勢が参加しました。イスラム教徒一般と同一視することがあってはなりません。きちんと区別するためにも、問題のイスラム過激派について知っておきましょう。

 今日取り上げるのは、①総合面(2面)の「時時刻刻/反テロ 熱気と現実/フランス首脳ら370万人行進/『パリ解放』以来の規模/反移民 右派の支持上昇」と、②国際面(6面)の「ボコ・ハラム テロ激化/ナイジェリアのイスラム過激派/女児使い『自爆』・町焼き打ち」です。
 記事の内容は――①犠牲者17人を出した連続テロに抗議するフランス全土での大行進の参加者は約370万人にのぼり、第2次大戦の「パリ解放」以来の規模に。行進には欧州や中東アフリカなど約50の国・地域、国際機関の首脳らも加わり、テロに屈せず、表現の自由や多様な社会を守ろうという思いを共有した。テロの3容疑者はイスラム過激思想に染まっていた。一方、欧州では、イスラム諸国からの移民らに対し、排外的な主張を掲げる右派政党が欧州各地で支持を伸ばしている。
②アフリカのナイジェリア北東部で、イスラム過激派「ボコ・ハラム」によるとみられる攻撃が激化している。10、11両日に少女らによる複数の「自爆テロ」が発生し多数の死傷者が出た。今月上旬には政府軍の軍事基地が制圧され、周囲の町が焼き尽くされて数百人以上が殺害される事件も起きた。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 ペンを掲げてのデモ行進からは、表現の自由に対する世界の人々の思いが伝わり、言論機関に属する私も胸が熱くなりました。今回のテロは、ほかにも宗教や文化、移民問題、国際的なテロ対応など多くのことを考えさせられます。世界情勢の一つのターニングポイントになるかもしれない大きな出来事です。マスコミ志望者はもちろん、それ以外のみなさんもいろいろな問題について考えてみください。

 今回のテロを機に、各地のイスラム過激派組織が活動を活発化させる恐れが強まっています。過激派組織は実はいろいろあってややこしいので、ニュースによく登場する組織を整理します。

【アルカイダ】イスラム過激派指導者オサマ・ビン・ラディンが築いた反米・反イスラエルの国際的テロ組織。「アルカイダ」はアラビア語で「拠点、基地」の意味。アフガニスタンに侵攻したソ連軍と戦ったアラブ義勇兵など多くの組織が合体して、1990年代にアフガニスタンで結成され成長した。2001年9月の米同時多発テロなど数多くのテロにかかわった。ビンラディンは2011年に潜伏先のパキスタンで米軍に殺害された。

【アラビア半島のアルカイダ(AQAP)】イエメンが拠点。アフガニスタンで軍事訓練を受けたサウジアラビア人らによって結成され、中東でもっとも活発なアルカイダ系組織といわれる。イエメン、サウジアラビア両政府の打倒、欧米権益の排除、イスラム国家樹立を目標とし、預言者ムハンマドの冒瀆(ぼうとく)に際だった役目を果たした国を「標的」として掲げる。後述の「イスラム国」とは一線を画し、彼らが主張する「カリフ制国家」の正当性はないと批判。

【イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)】アフリカのアルジェリアなどを拠点とする。2013年、日本の日揮の社員10人が犠牲になった同国の天然ガス生産施設で起きた人質事件への関与が疑われ、AQAPとも協力関係にある。

【イスラム国】もとはアルカイダ系組織だったが、残虐性を非難されアルカイダとたもとを分かったとされる。イラク、シリアで勢力を伸ばし両国北部を支配下に置く。2014年6月にカリフ(預言者ムハンマドの後継者)制国家を宣言。欧米人人質や敵対者を斬首するなどして恐怖支配を行い、異教徒の「奴隷化」を公言している。行政も運営し、理想郷としてのイスラム国家をうたい、巧みな宣伝戦略でアラブ諸国や欧米のイスラム教徒を引きつけ、多くの若者が参加している。

【パキスタン・タリバーン運動(TTP)】2007年に発足したパキスタンの反政府武装勢力。隣国アフガニスタンの反政府勢力タリバーンやアルカイダとの関係を深めてきた。極端なイスラム法の解釈の下で女子教育を敵視。2014年12月、パキスタン国内の学校を襲い、生徒ら150人近くを殺害。ノーベル平和賞を受けたマララ・ユスフザイさんを2012年に銃撃し大けがを負わせたのもこの組織。今回の襲撃事件を称賛。

【ボコ・ハラム】「西洋の教育は罪」という意味で、欧米型教育を重視する政府や学校施設への攻撃を繰り返している。2014年4月、ナイジェリア北東部ボルノ州の学校を襲って200人以上の女子生徒を誘拐。12月には同州の村を襲撃して180人の子どもや女性を誘拐した。

 マララさんがTTPに対して「あなたたちは(イスラム教の)聖典コーランを学んでいない」と非難したように、これら過激派の蛮行はほとんどのイスラム教徒にとって迷惑きわまりない存在です。

 ただ、今回襲われた仏週刊新聞「シャルリー・エブド」が載せたムハンマドの風刺画そのものは、多くのイスラム教徒も受け入れているわけではありません。偶像崇拝を厳しく禁じているイスラム教では、ムハンマドを描くこと自体がタブーであり冒瀆だと受け止めるからです。2005年にはデンマークの新聞がムハンマドを風刺する漫画を掲載。シャルリー・エブドを含む欧州各国の多くのメディアも転載したことからイスラム社会の抗議を呼び、各地でデモや襲撃が起きる騒動に発展しました。シャルリー・エブドはその後も表現の自由を盾にタブーなしの編集方針を貫き、カトリック、大統領、政党などすべてを風刺の対象にしています。言論への暴力は絶対に許されませんが、事件の背景にはこんな事情があることも理解しておいてください。

※朝日新聞デジタルの無料会員は1日3本の記事全文を、有料会員になればすべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。ぜひ登録してください。

アーカイブ

テーマ別

月別