2015年01月07日

トヨタ「究極のエコカー」の特許開放、どうして?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 トヨタ自動車が世界で初めて市販を始めた燃料電池車(FCV)の特許を無償で開放すると発表しました。「究極のエコカー」と呼ばれるFCV。巨費を投じて開発した「虎の子」の技術なのに、どうして敵に塩を送るようなことをあえてするのでしょうか? まず「水素社会」を実現し、そこで主導権を握るというトヨタの戦略が見えてきます(写真はトヨタのFCV「MIRAI(ミライ)」)。

 今日取り上げるのは、総合面(3面)の「トヨタ 特許開放戦略/燃料電池車 他社の参入促す/IT・電機業界、先行」です。
 記事の内容は――トヨタは、燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて電気をつくる基幹部品「スタック」関連の約1970件を始め、FCVにかかわる計5680件の特許をすべて無償で開放する。FCVの普及には政府やエネルギー業界の支援が欠かせず、「オンリーワン」の技術のままでは広がらないという危機感から決断した。自動車関連では珍しい手法だが、IT(情報技術)や電機業界では一般的。グーグルが開発した基本ソフト(OS)「アンドロイド」がよく知られている。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 特許は、新たな発明などについて独占的な権利を認めるもので、日本では特許庁が審査します。認められると他社は最長20年間勝手に使うことはできず、使う場合は特許権をもつ会社にライセンス料を払わなければなりません。特許の数は企業の技術力の高さを示す一つの指標でもあります。世界知的所有権機関(WIPO、本部ジュネーブ)によると、2013年の国際特許出願数1位はパナソニックで、シャープが6位、トヨタは8位。国別では1位米国、2位日本、3位中国、4位ドイツでした。

 最近、日本はエネルギーの輸入などで貿易赤字が続いていますが、投資や特許権など知的財産による収入は増える傾向にあり、これらを含めた経常収支は黒字になる月が多くなっています。トヨタもこれまではハイブリッド車(HV)の技術は他社に有償で提供してきました。そのトヨタが今回は無償開放という思い切った戦略をとったのには、FCV特有の事情があります。

 「水素社会は、いろいろな会社が参加してくれないとできない」
豊田彰男社長はこう説明しました。ガソリンエンジンと電気モーターを併用するHVは今あるガソリンスタンドで給油できますが、FCVはまだほとんどない水素ステーションがたくさんできないと普及しません。無償開放によってFCVをつくる会社が増えれば、エネルギー会社も水素ステーションを整備しやすくなります。今回開放する特許のうち、水素ステーション関連の約70件は無期限ですが、その他ほとんどについてはFCVの本格的な販売が始まる2020年末までと無償提供の期限を区切ったのもこのためです。同社幹部は「その頃までに新しいFCVの技術を開発し、今回出す特許を陳腐化させてみせる」と語っています。

 FCVは、トヨタがドイツのBMWと共同開発を進めているほか、日産自動車は独ダイムラー、米フォード・モーターと提携、ホンダも米ゼネラル・モーターズと共同開発しています。今回の開放戦略に世界の自動車メーカーがどう対応するのか、水素社会は実現するのか、今後の動向に注目してください。FCVについては、2014年6月26日の今日の朝刊「水素と酸素で走る!トヨタ『究極のエコカー』発売へ」も読んでください。

 特許など知的財産の活用法は表にあるように業界や企業によってさまざま。志望する企業の戦略についても調べてみましょう。

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