2014年12月16日

総選挙特番はテレ東が「大勝」⁉ 選挙報道を考える

テーマ:メディア

ニュースのポイント

 衆院選は、自民、公明両党が公示前を上回る326議席を獲得して大勝しました。投票率は52.66%と戦後最低を記録。テレビの選挙報道も低調でしたが、各局の特番では個性の違いも見えました。選挙報道を通して、政権や政治との距離や伝え方、報道のあり方について考えます。

 今日取り上げるのは、社会面(37面)の「ニュースQ3/選挙開票特番 首相に切り込んだのはどの局?」です。
 記事の内容は――公示前、自民党が在京キー局に報道の「公平」を求める文書を送り、政権との距離感も問われた衆院選。限られた時間で安倍首相に切り込み視聴者にアピールしたのはどこか。記者が選挙特番を見比べた。事前取材のVTRで選挙戦を振り返ったTBSの視聴率は伸び悩んだ。民放で最も支持を集めたテレビ東京は、元NHK記者の池上彰氏をメインキャスターに据え、各局が持ち時間6分間の中継時間で競った安倍首相へのインタビューで集団的自衛権などのテーマで突っ込んだ。鋭さを感じさせたのは日本テレビ。村尾信尚キャスターが経済政策などで首相に迫った。解散から1週間で衆院選を取り上げたテレビ番組の放送時間は前回2012年の3分の1(エム・データ調べ)に減り盛り上がりを欠いたが、首相と生で対峙(たいじ)する場面ではありのままの人物像を映し出すテレビメディアの特性を発揮した。NHKは首相の持論を拝聴するような質問を繰り返し迫力不足。午後8時台から討論を始めたフジテレビは「選挙後」を考えようとする創意が感じられた。有権者の関心の薄さを反映したのはテレビ朝日。羽生結弦選手が優勝したフィギュアスケートの模様を合間に流し、テレビ東京と並ぶ民放トップの視聴率だった。(写真は、途中にフィギュアスケートを放送したテレビ朝日系「選挙ステーション」。画面は羽生結弦選手=テレビ朝日から)
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 今回の衆院選では、自民党が各局に「公正中立、公正の確保」を求める文書を送り、議論になりました。「あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあった」と指摘したうえで、出演者の発言回数やテーマについて特定の意見が集中しないよう求めました。1993年に民放の報道局長が国会に証人喚問された問題を指していると思われますが、当時の検証で放送内容自体には不公平、不公正はなかったと報告され、当時の郵政省も「放送法違反はない」としています。

 そもそも、放送免許を総務相から与えられている放送局は、ふだんから政治的に公平な番組を作らなければならないと放送法で定められています。それなのにこうした文書を送ったことについて、識者からは「報道が萎縮するような圧力」との批判が相次ぎました。田島泰彦・上智大教授(メディア法)は「公平公正というのは足して2で割るという話ではなく、権力の持っている政権の問題を指摘し、時間をかけて課題を議論することは報道としては健全だ」と批判。逢坂巌・立教大兼任講師は「選挙報道におけるテレビの中立性の問題はあいまいなまま封印されてきている。政治的に公平な報道とは何か、視聴率との関係をどう考えるのか、いまこそ開かれた議論をすべきではないか」と問題提起しました。メディア志望者は、この機会に、問題の経緯を知ったうえで考えてみてください。

 今日の記事に出た開票速報の選挙特番の各局の視聴率をまとめると以下のとおりです(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。①NHK=14.6% ②テレビ朝日、テレビ東京=11.6% ④日本テレビ=10.1% ⑤フジテレビ=6.9% ⑥TBS=4.2%

 開票速報で毎回もっとも見られるNHKとフィギュアを放送したテレビ朝日を除くと、キャスターが首相に切り込んだ局の視聴率が高い傾向が出ました。ここにはテレビメディアの特徴がよく出ています。生放送でありのままを伝えるのは、テレビがもっとも得意とするところです。話す内容だけでなく、表情や声色、しぐさまで映し出し、人間性も伝わります。大勝した安倍首相が今後どんな政治をしていくのか、視聴者は生の首相に注目したということでしょう。一方で新聞は多くの情報を整理して伝えるのに向いていますから、詳しい選挙結果や分析が得意です。マスコミ志望者は、こうしたメディアの特性、それぞれの長所、短所を知ることが大事です。これからESに書き、面接で語る志望動機にもつながっていきます。

 選挙特番では、各テレビ局が権力に対峙する姿勢の一端が表れた面もありそうです。テレビ志望の人は志望する局の番組だけでなく他局の番組と見比べるという作業も必須ですよ。

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