言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2014年11月26日

「、」知る、地知る、我知る、人知る~読点の話2

 前回は「読みやすくする」「強調する」ための読点について話しました。読点の役目には他にもあります。それは「誤読を避ける」ために打つ場合です。
 よく知られた「注意喚起の貼り紙」というものがあります。

 ・ここではきものをぬいでください

 この文章、読点を打つ場所で意味がガラリと変わります。

 ☆ここでは、きものをぬいでください
 ☆ここで、はきものをぬいでください

 真っ裸になるのと靴を脱ぐのとでは大違いですね。

 「いぬがねこをうんだ」なども同様ですね。

 「いぬがね、こをうんだ」
 「いぬが、ねこをうんだ」。後者なら大ニュースです(笑)。

 もっともこれらの文は、読点がなくても漢字で書けばその誤読を避けられます。

 ☆ここでは着物をぬいでください
 ☆ここで履物をぬいでください

 ☆犬がね子を生んだ
 ☆犬が猫を生んだ

 しかしこれはどうでしょう。

 ・今日は雨が降る天気ではない

 結局雨なのか雨ではないのか。どちらにも読める文章です。

 ☆今日は、雨が降る天気ではない(=晴れか曇り)
 ☆今日は雨が降る、天気ではない(=雨が降る)

 正反対ですね。読点おそるべし。

 読点の効果は大事ですが、皆さんのESや作文を拝見すると「そこは使わなくても……」という例によく出会います。要は多用し過ぎる傾向がある。読点の多い文章は読んでいてリズムが断ち切られ、非常にストレスを感じます。せっかくの中身が良くても評価を下げたくなります。

 読点を別の表現で置き換えられる例を二つ挙げます。

 ・私はこの半年の語学留学を経て、まだまだ発展途上、日々勉強だな、ということを痛感しました。

 中身は悪くない。ただこの短い文に読点が三つ。こうしたらどうでしょうか。

 ☆私はこの半年の語学留学を経て「まだまだ発展途上、日々勉強だな」ということを痛感しました。

 思ったことや感じた事をカギ括弧(「 」)でくくる。ずいぶん見た目がスッキリしました。カギ括弧自体も、多用するとうっとうしいのですが(特に短い単語に使いすぎると暑苦しい)、ここは良い置き換えでしょう。
 
 ・私はとにかく球技が大好きです。親が熱心に通わせてくれたこともあり、幼稚園から今までに野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、ハンドボールと、一通りのものは体験してきました。

 たくさんの事柄を並列する。もちろんこれも読点の役目です。ただ二つくらいならまだしも、これはちょっと多い。こんな時は、

 ☆私はとにかく球技が大好きです。親が熱心に通わせてくれたこともあり、幼稚園から今までに野球・サッカー・バスケットボール・バレーボール・ハンドボールと、一通りのものは体験してきました。

 どうでしょう。中黒(・)にするだけで、ずいぶん印象が変わりませんか。これは覚えておいて損はないテクニックです。

 2回続けて読点について書いてきました。これだけではなかなか「うまい使い方」を身につけるのは難しいかもしれません。そんな時は書いた文をそっと声に出して読んでみて下さい(黙読でも構いません)。自分が間を置かないところに入っている読点は、おおむね不要なことが多いです。少し意識してみましょう。

【今週のおまけ ~広告コピーにも句読点、増えてます。~】

 普通、歌や書籍のタイトルには句読点を入れないものです。逆に言うと、入っているものはそれだけでインパクトがある。最近だと映画にもなった小説「桐島、部活やめるってよ」(朝井リョウさん)が印象的ですね。白岩玄さんの「野ブタ。をプロデュース」なんてのもあったなあ。漫画だと吉田戦車さんの「伝染るんです。」が代表格かな。

 以前も書きましたが筆者は現在42歳。こういう傾向が見られるようになったのは、私が10代だった80年代のコピーライティングからではないかな、と感じます。糸井重里さんの「不思議、大好き。」「おいしい生活。」(いずれも西武百貨店)などは、初めて見た時の不思議なこそばゆさというか浮遊感、そしてつい口にしてしまった感覚をいまだに覚えています。

 最近は政党のポスターなどでも使われるようになって、「新鮮な驚き」は薄れてきた感じもありますが……。