言葉マイスター ナカハラハラハラ 略歴

2015年05月27日

「変わった趣味」を貫く強さ~ギャップを武器にする

 前回に続き、趣味・特技の話です。予告通り、2人のアイドルさんを取り上げます。どちらも大人数グループアイドルに所属しながら、自分の「趣味・特技」を「強み」につなげた共通点があります。

憲法を暗唱するアイドル

 まずは先日の「今日の朝刊」でも取り上げたAKB48・チームBの内山奈月さん。1995年9月25日生まれ、今年20歳になる彼女の特技は、なんと「日本国憲法の全文暗唱」。それもただ丸暗記しているだけではなく、ある条文を指定されても正確に読み上げるという、なかなかの記憶力です。元々子供の頃からお母さんにすすめられ、「奥の細道」や「方丈記」などの名文も暗唱していたそうです。

 まだチームに所属していない研究生だった2013年6月。SKE・NMB・HKTも含めた、当時の全AKBグループ研究生を集めたコンサートが日本武道館でありました。そこで何かひとつ特技を披露しなくてはならなくなった彼女は、壇上で憲法の条文を暗唱しました。本人としては「正直アイドルしては地味だよなあ」という思いだったそうです。

 ところが、これに食いついた人がいます。他ならぬ、AKBグループのプロデューサー・秋元康さんです。この特技を面白がったばかりか、同年夏のビジネスマン向け月刊誌「THE21」(PHP研究所)のインタビューで、

 「AKBの研究生に日本国憲法を全文暗記している内山奈月という子がいる。この子を生徒役にして、憲法の専門家から講義を受けるような企画があってもいいかも」

 と語ります。これをきっかけに話がとんとん拍子に進み、2014年7月、「憲法主義~条文には書かれていない本質~」という本が同社から出版されました。九州大学法学部の南野森教授との共著で、南野教授が生徒役の内山さんに講義をする、という形式が取られています。アマゾンでは発売後1カ月近く「法律」部門で1位をキープするなど、爆発的に売れました。

 今年の憲法記念日前後にも、TBSの「NEWS23」の特集「未来世代が憲法考える」に出演したり、朝日新聞の特集紙面で首都大学東京准教授・木村草太さんと対談をしたりするなど、特技を仕事に生かしています。

将棋にはまったアイドル

 もうひとりは、AKB48の公式ライバル、乃木坂46の2期生・伊藤かりんさん。1993年5月26日生まれ……ということは、まさに22歳になったところですね。おめでとうございます。
 彼女の趣味は「将棋」。これまた憲法に負けず劣らず、一見すると華やかなアイドル稼業とはずいぶん違った印象があります。

 元々は幼い頃におじいさんからルールを教わった程度だったそうですが、昨年BSの将棋番組にゲスト出演した際にすっかりとりこになってしまい、名人・羽生善治(はぶ・よしはる)さんの入門書を読むなど勉強を重ねます。
 昨年12月から、日本将棋連盟発行の機関誌「将棋世界」に連載「かりんの将棋上り坂↑」を開始。戸辺誠六段の指導を受け、対話形式で棋力を磨く、という企画に挑んでいます。本格的に将棋を始めて1年足らずですが、日本将棋連盟の公認アプリでアマ4級に認定されるなど、着実に進歩を見せています。

 そして、今年2月、NHK・Eテレの「将棋フォーカス」にゲスト出演。これだけならよくある話ですが、それにとどまらず、番組リニューアルに伴い、何とこの4月からメイン司会に抜擢(ばってき)されたのです。同番組でアイドルが司会を務めるのは、当然ながら初めてのこと。まさに「快挙」だと言えます。

好きこそものの……

 内山さんは研究生時代、率直に言って「推されている」メンバーではありませんでした。同期の三銃士(小嶋真子さん・西野未姫さん・岡田奈々さん)という売り出し中のメンバーの陰に隠れていた、と言うのが正直なところです。
 しかしこの「憲法」という武器をきっかけに注目度が上がり、今年1~3月に放映されたドラマ「マジすか学園4」でも「ケンポウ」という役どころを演じていました(劇中でも、脈絡なく条文を暗唱するキャラクターでした。笑)。

 伊藤さんは、乃木坂46のシングル曲のタイトル曲を歌う選抜メンバーに選ばれたことはまだありません。しかし、その選抜メンバーでさえほとんど持っていない「ソロでのレギュラー番組枠」を手にしています。

 「この2人はアイドルだから特別でしょ?」

 という声もあるでしょう。それも一理あります。しかし、憲法を暗唱したり、将棋が好きなことはアイドルとしての「本業」でしょうか? ポイントは、2人が「本業外の強み」を「本業」に結びつけたこと。まさに「好きこそものの上手なれ」です。一見「おまけ」のように見える「趣味・特技」が、自分のしている(したい)仕事に意外な形で生きてくることを、この2人が示してくれています。

 ぜひ皆さんも「こんなこと書いて(言って)意味あるのかなあ」と臆さず、「意外な」趣味・特技をアピールしてみて下さい。それが採用に「直結する」ことはなくとも、いつかはその武器が生かされる……いや、「生かしたい」と思ってくれる人に出会えるかもしれません。

 「見せない」宝は「無い」のと同じ。就活に際して、「沈黙は金」は成り立ちません。