あきのエンジェルルーム 略歴

2015年03月19日

人生は「七五三」 仕事を続けるコツは「70%主義」!?  ♡Vol.28

 いつも心にエンジェルを。

 「七五三」ってなんのこと? みなさんの狐につままれたような表情が目に浮かびます。あとで詳しく説明するので、ちょっとだけ待ってくださいね。
 これから社会人になるみなさんに、今回はワークライフバランス(WLB)研究の第一人者で、東レ経営研究所研究部長の渥美由喜(なおき)さん(下写真)の話を紹介します。シンクタンクの研究員として国内外のワークライフバランス、ダイバーシティー先進企業を訪問し、財務データとともに分析してきました。
 渥美さんは「WLB」を「ワーク・ライフ・バランス」の頭文字をとって、「ワ(分かち合い)・ラ(楽あり苦あり)・バ(バトンリレー)」と意訳されています。人生の苦楽を分かち合える、支え合える相手をどれだけ持てるかで、その人の仕事も含めた人生の「質」が決まるといいます。一番身近な存在であるパートナーはもちろんですが、親や兄弟姉妹、会社の同僚、ご近所さん、一人ですべてを抱えこむのではなく、いろんな作業や負担を「バトンリレー」できる関係を作ることが肝心だというのです。

 「でも、自分が困ったときだけ『助けて』と言うのは、虫がいい話。社会人になったらまず、小さなことでもいいので、自分自身が周りの人、苦労している人を手助けできるチャンスを逃さないようにしてほしい。そういう関係性ができたら、いざというときに甘えやすくなります。堂々と人に頼れる人になりましょう」と渥美さん。
 さて、冒頭の「七五三」です(遠い道のりでしたね)。よく、日本の男性は、生き甲斐が仕事しかない「会社人間」などと言われますが、男女にかかわらず、「職業人、家庭人、地域人の三面性」を持つべし、というのが渥美さんの持論です。そして、自分の労力、パワーを注入する割合は「七五三」、「7割(仕事):5割(家庭):3割(地域)」を目指しましょう、と呼びかけています。
 
 エッ、仕事には全力を尽くすべきでしょ? 家庭や地域への注力は子どもができてからでいいんじゃないの? しかも、割合なのに足して150%っておかしくない? そんな声が聞こえてきそうですね。でも、渥美さんはこう言います。

 「仕事に100%のパワーを使わないこと。これは男性も同じです。70%の力で、80、90%のパフォーマンスを目指せばいい。ビジネスの変化の激しい時代です。目の前にある、与えられた仕事で一生食べられると思うな、と。自分の生き方を見つける時間を独身時代から確保することが大事なんです。特に、がんばりやの優秀な女性に多いのが、独身の間は仕事に100%、120%の力を注ぎ、長時間労働しちゃう人。こういう人が結婚や出産を経験すると、もう全力投球なんてできませんから、仕事も家事も子育ても中途半端になっていると思い込んでしまいがち。いろんな方向に『申し訳ない』という罪悪感をもって、結局、仕事を取るか、子どもを取るかの二択になってしまうんです」
 確かに働くママは四方八方に謝ってばかりです(♡Vol.2も読んでね)。もちろん就活の時点では「仕事は70%の力で」などとカミングアウトしないでくださいね。小さく心にとどめておく程度で十分です。
 渥美さんは4歳と8歳の男の子の父親です。妻も大手IT企業の部長職としてバリバリ働いています。夫婦ともに働き盛りの「会社員」、そして「子育て」と「家事」、さらには、認知症の父親の「介護」、闘病中の次男の「看病」という役割を担っています。それでも地域人として、20年以上続けている「子ども会」などでのボランティア活動もあきらめていません。役割の頭文字から「6Kライフ」と渥美さんは呼んでいます。育休も2回とも取得しています。渥美さんは言います。
 
 「家庭は夫と妻が50%ずつの力を出し合って、100%になればいい。我が家の場合は、いまはお互い忙しくて50%も注入できなくなったけれど、子どもと向き合う時間と食育だけは手抜きしたくない。だから、掃除といった『家族でなくてもできる家事』は外注しています。“七五三”はあくまでも目標値。だから足すと100%オーバーしちゃうんです」
 お互いに忙しく、部屋の隅にできた綿ぼこりをあやうく子どもが食べようとしたとき、「このままではいかん」と自分の小遣いで家事代行業者を頼みたいと妻に提案したといいます。
 内閣府の平成25年度男女共同参画白書によると、6歳未満児のいる世帯の1日の家事関連時間は、夫が1時間7分(うち育児時間は39分)、妻は7時間41分(うち育児時間は3時間22分)となっています。週末などの休日分もならしたうえでの平均です。渥美さんのこの「そもそも家事の半分は夫の仕事である」という責任感がいかに貴重かよくわかりますね(上写真は8年前の渥美さん)。
 一生独身、あるいはパートナーが専業主婦あるいは専業主夫だったとしても、100%仕事というのはキケンです。なぜなら親の介護という可能性があるからです(左写真は介護支援ロボット「ROBEAR」。本文とは関係ありません)。
 2013年に総務省が発表した「就業構造基本調査」によると、介護をしながら働く「ワーキングケアラー」は約290万人、介護をしている約560万人の過半数です。追い詰められて、急に仕事人としての割合を下げるのではなく、社会人としてのスタート時から仕事人以外の「枠」(時間)をきちんともっていれば、ライフプランの「変化」に柔軟に対応できます。
 
 渥美さん自身、以前いた職場で、数カ月単位の育休取得や、休日を使ったボランティアなどの取り組みに対し、上司から「キャリアに傷がつく」「妻選びを間違った」「無償労働をする人間は無能だ」「評価を下げるぞ」といった理不尽な対応をされた経験があります。だからこそ最後は、「家族は変えられないけど、会社や仕事は変えられる」と吹っ切れた、といいます。実際に転職もされています。

 「無理解な職場だからと何もしないで我慢する、あきらめてすぐ辞める、というのはダメ。意思表示すれば、同じ悩みを抱えている人が職場のどこにいるかわかります。共感の連鎖が広がれば企業風土だっていつか変わる日が来ますよ」

 そう、「もともと地上に道はない。歩く人が多くなればそれが道になる」(魯迅)のです。

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